寒天のはなし

 

 桜も散り、新緑の頃になると、私はそろそろ寒天がこいしくなってきます。

 

 いつも思っていることですが、日本人の、食に対するセンスは本当に素晴らしいものですね。

 

 寒天のそもそもの姿をご存知ですか?

 あの、つるりとなめらかな食感、透明でキラキラとしたきれいな容姿からは想像できないほど、もしゃもしゃとした、色も濁っていて薄汚れたような、まるでスチールタワシのような風貌をしています。

 

 それを煮て、濾して、固めるだけで、あの美しい寒天になるのですから、何とも素晴らしい限りです。

 

 私が子供の頃は、近所に寒天を作っているお店があり、お豆腐屋さんのように大きな木の水槽の中で泳いでいた寒天の姿を、時々懐かしく思い出します。

 

 買いに行くと、ちょっと濁った四角い寒天を切り分けてくれ、それをアルミのお弁当箱に入れてもらうのが楽しみでした。

 

 赤えんどうの塩茹でや、あんこ、夏ミカンの缶詰などをトッピングして、黒みつをかければ、私の大好物、あんみつの出来上がりです。

 

 上野や神田界隈にも美味しい甘味処があり、高校生の頃は部活の帰り道に立ち寄って、よく食べたものでした。

 

 仙台に暮らして間もなく、むしょうに食べたくなり、甘味処に行ったのですが、海藻の香りがいっぱいのプルプルとした寒天になかなか出会えませんでした。

 ならば自分で作るしかない!と思い、原料の天草を、三陸の漁港から取り寄せました。分量通り、天草50グラムをよく洗い、12カップの水とともに鍋に入れ、沸騰するまで強火、沸騰したら、お酢大さじ2を加えて弱火で30分ほど煮ます。火を止めてから、30分~1時間そのまま置き、布巾で濾して、四角いタッパーに入れ、常温でゆっくり冷まし固めます。

 

 ゼラチンと違って、常温でも固まりますが、天草の産地や、品質によって味も食感も微妙に違ってきます。いつも同じものが出来るとは限りませんが、毎回出来上がるまでドキドキで、それも楽しみの一つなのです。

 

 ちなみに、四角くてかさかさとした棒状の寒天は、先ほどの様にして煮た寒天を、長野県の諏訪湖の近くで、一冬凍らせて乾燥させたものです。この寒天を使ってあんみつや、ところてんを作ることも出来るのですが、やはり海藻の香りは今一つです。でも、煮溶かすだけで簡単に作れるため、寒天ゼリーや、杏仁豆腐などを作る時には重宝します。

 棒寒天を使って作る、美味しくてきれいな人参ゼリーにも大活躍してくれます。

 

 人参ゼリーの作り方をご紹介しましょう。

 

材料

 寒天     1本

 水      3カップ

 ハチミツ   大さじ3

 人参     2本

 レモン汁   1個分

 

作り方

 寒天はよく洗い、1~2時間水に浸けておきます。人参は薄切りにして、水1カップで15分煮て柔らかくし、ミキサーにかけて、ドロドロにします。

 寒天を絞り、2カップの水で煮溶かし、先ほどの人参、ハチミツ、レモン汁を加えます。粗熱を取って、濡らした流し型に流して固めます。

 

 我が家では、これを梅の形の抜型で抜き、お節料理の一品にしています。

 

身体によくて、プルプルしていて美味しい寒天は、ゼリーよりも私の好みです。嬉しいことに、一度にタップリ出来て、食べ放題になってしまいますから、つい食べ過ぎて身体を冷やし過ぎないように、気を付けて楽しんでくださいね。