パンのこと

 

 私のパン作りは、今から30数年前に仙台に住んで居た頃、子供たちに焼き立てのパンを食べさせてあげたいと、本を見て見よう見まねで作ったのが始まりでした。

 

 当時のオーブンはガスの上に乗せる上乗せオーブンといって、50センチ四方の四角い箱型で、今思うとなかなか省エネの簡単な構造です。30年ほど前にアメリカ製のマジックシェフに代えるまで、本当によく頑張ってくれました。

 

 上乗せオーブンは、宮城県沖地震でガスが止まった時も、七輪の上に乗り、ライフラインが復活するまでの約1か月間大活躍してくれました。

 

 当時の私のパン作りは、力まかせにこねたりたたいたりしてそれはもう大変な重労働でした。

 その後電気の餅つき機が売り出され、こねる作業がぐっと楽になりました。

 

 仙台の木町通りという所に美味しいケーキ屋さんがあり、休日はお店の厨房でケーキ教室を開いていましたから、そこに通いプロの作り方を学びました。

 その時、上の丸いイギリス食パンではなく、正方形の食パンの作り方を初めて知り感動したのを覚えています。

 

 パンは釜伸びといってオーブンに入ってからぐんと膨らみますが、その力がどの位か見込みをつけて発酵時間を調整し、蓋をして焼きます。

 その日の気温や湿度、生地のこね具合などさまざまな条件が影響しますから、きれいな四角に焼きあがるかどうか、完成してみないと分からない所が、陶芸のようで、ちょっとしたスリルと感動があります。何回作っても全く同じものはできません。

 

 粉は今はカナダ産の有機栽培の小麦粉を使っていますが、可能な限り国産の小麦粉でできたらいいなと考えています。

 ただ国産のものだけで作ると、膨らみの力が少々足りません。時々両方をブレンドして、一番いい割合を試したりもしています。

 

 イースト菌については、天然酵母100%というものも作ってみましたが、少々香りが強く、膨らみの力や時間など、いろいろ難しい点もあり、家族の評判も今一つでした。

 もともと私は百点満点でなくてもいい、60点とれれば、という生き方をしていますから、それならと、これも両方を半分ずつ足してみました。

 すると天然酵母の味と香り、ドライイーストの持つ膨らみ方、この二つの長所が見事にマッチしました。

 作り始めた30年以上前はパン専用の業務用小麦粉を使い、ドライイースト100%で作っていたにもかかわらず、皆さんに美味しいと言って頂けたのは、周りの人達を喜ばせたいという思いがパンに伝わっていたからなのかもしれません。

 

 今、パンやケーキを作っていて感じるのですが、30年以上前に使っていたオーブン、ケーキミキサー、スピードカッターなどのブレンダー類はどれもアメリカ製で確かに早く出来、手間はかかりませんでしたが、それと引き換えに、耳を覆いたくなる程の大きな音、使う電力などは結構なものでした。

 

 やはりこの手で作るのが一番いいかな、やさしく作る方がいいかな、そんなに混ぜなくても、そんなにふわふわでなくてもいいかな、と思い始めています。

 

 本当に凝ったケーキやパンはどうせかないませんからプロの方にお任せして、お母さんの作るケーキやパン、料理は愛情一杯というだけでもう十分だと思います。

 子どもの頃大好きだったおままごとを今でも出来るなんて幸せ。私は今でもおままごとを楽しんでいるのです。