奄美大島のこと

 

 2008年の6月に、トクナガさんにお会いしました。とてもパワフルで、いつもニコニコと笑顔いっぱいの方で、こんな元気な方がいるのだという事に、初めてお会いした時はびっくりしました。

 お話を聞いて、さらに驚きました。若い頃難病にかかり、命の危機を何度も潜り抜けてきたそうで、私には想像もできないたくさんの経験をされた方でした。

 

「幸せだから笑っているんじゃないんだよ。笑っているから幸せなんだよ」

 

と言って笑う彼女の笑顔を見ていると、私の今までの苦労なんて、苦労のうちに入らないのかもしれない、と思われてきました。そんなトクナガさんとのご縁で、奄美大島に行く機会をいただきました。現在は娘さんと東京で暮らしていらっしゃいますが、亡くなったご主人の法事で奄美にお帰りになるとのこと。奄美にいらっしゃいませんかとお声をかけていただき、うかがうことになったのです。

 なぜそのような運びになったのかわかりませんが、何か見えない力に導かれて行かせていただいたような気がしました。

 

 爽やかな風は涼しく、緑の多い、美しい島でした。

 都会では味わえないきれいな空気、どこまでも続く美しい海に、思わず「うわあ」と歓声を上げました。島には底抜けに明るい風が吹いていて、何を見てもきれいで、感動でした。

 

 さっそく、西郷隆盛が三年半過ごした家を見学しました。案内してくれた方は、島で西郷さんと共に暮らした愛子さんの末裔の方で、当時は質素な家で、みんなで西郷さんを助け、温かく見守っていたそうです。歴史の中で名も知らず、でも大きな活躍をされた方々に思いを馳せました。

 昼食はトクナガさんに縁のある方々がいろいろ用意して待っていてくださいました。お料理はどれも奄美の食材を上手に活用したものばかりで、それぞれがお得意料理を持ち寄り、私達をもてなしてくれました。珍しい奄美の食材は、海の幸、山の幸で、真心一杯の品々ばかり。感激の食卓でした。

 

 中でもハンダマと呼ばれる紫の野菜は、お浸しにしたり、煮だした汁をご飯に炊きこんでお寿司にしたり、ゼリーにしたりと、その使い方の広さにびっくりでした。

 

 モズクや青さのりなどの海藻も、海の美しい奄美産のものは味も格別でした。

特産の黒砂糖は、その後奄美のどこに行っても、食前、食後と口にする、奄美の食卓には欠かせないものでした。

 島全体が濃い緑に覆われていて、海も空気も美味しい奄美で育ったサトウキビは、当然ながら美味しいに決まっています。これまでも私は三温糖や黒砂糖をパンやケーキに入れていましたが、奄美のものと出会ってからは、直接取り寄せるようになったほどでした。

 

 美味しいお昼ご飯を囲みながらのおしゃべりは本当に楽しく、初めての出会いにも関わらず互いにすぐ打ち解けて、昔からの友人たちのような雰囲気でした。

 夜は、トクナガさんのご自宅に親戚の方が集まってくださり、夜遅くまで宴が続きました。一人の方が島唄を披露してくださいましたが、その歌声はもの悲しく、心に沁みとおり、奄美の歴史を物語っているのでしょうか、私を懐かしいような気持ちにさせてくれました。歌詞はまったく理解できず、まるで外国語を聴いているようでした。

 その後、元校長先生の方は、詩を大きな筆で書いて貼りだしてくださり、やっと意味が理解できました。今度は唄に合わせてその場にいる方々が掛け声をかけたり、踊ったりと盛り上がり、その場の実なの心がひとつになりました。外の人間から見たその姿は、カラオケの盛り上がり方などと違い、島の人たちがお互いに助け合って暮らしている、その暮らしと心そのものに見えました。

 

 島での最後の日、ウチクラさんという人に出会いました。

 奄美大島をきれいにしたいと、島のリサイクル事業を一手に引き受けていらっしゃる女性の社長さんです。大変お忙しい方にもかかわらず、私達を丸一日案内してくださいました。

 奄美の自然に魅了され、そこで晩年を過ごした、日本のゴーギャンと呼ばれている田中一村の美術館や、手作りで黒砂糖を作っている工場などを、見せていただきました。

 ご自身も、島の歴史同様、私達には想像もできない数々の苦労を、今の幸せに結びつけた素晴らしい方でした。

 

 島の美しさ、島の恵みを十分堪能した私でしたが、それだけでなく、そこで暮らす人々の深い想いを感じ取ることが出来ました。それは決して外から見るだけでは分からない事でしたし、今回の旅がなければずっと知ることもなかったことでした。

 不思議なご縁をいただけたことに心から感謝した旅でした。

 

 ちなみに今回の奄美旅行で、何度ももてなされた鶏肉を使った美味しい郷土料理をご紹介したいと思います。これは、かつての天皇陛下も、お代わりをされたほどの、あっさりとした美味しいもてなし料理です。

 

鶏飯の作り方

 

材料

 普通に炊いたご飯        適量

 鶏ガラ             一羽分(なければ手羽先5~6本)

 鶏のささみ           6枚(または胸肉1枚)

 しいたけ            8枚

 卵               4個

 わけぎ、又は三つ葉       適量

 ミカンの皮(又はレモンの皮)  適量

 刻み海苔            適量

 パパイヤの漬物(又は奈良漬け)  適量

 

A:酒、みりん          各小さじ2

  塩               小さじ1

  薄口しょうゆ          大さじ1

 

B:しょうゆ            大さじ2

  砂糖              大さじ2

 

作り方

1.鶏ガラはたっぷりの水で、アクを取りながら一時間ほど煮出す。ささみも入れ、

  火が通ったら取り出しておく。

2.スープは濾して、Aで味を付けておく。

  しいたけは、千切りにしてBで味をつけ、煮含めて置く。

3.卵は薄い塩味をつけ、薄焼き卵を作り、錦糸卵にしておく。

4.わけぎ、ミカンの皮、漬物はみじん切りにする。

5.炊き立てのご飯を器に盛り、手で割いたささみ、3.4.を盛り、

  刻み海苔を載せ、熱々のスープをたっぷりかける。

 

 コラーゲンたっぷりの、この伝統料理が、島の人々の若さと美しさの秘訣なのかもしれません。