凍み豆腐(しみどうふ)のこと

 

 私が暮らしていた頃の仙台は今よりも寒かった気がします。これも地球温暖化を関係があるのでしょうか。

 寒い冬になると、凍み豆腐が食卓に欠かせなかったことを思い出します。仙台で冬のお味噌汁の具は、凍み豆腐と豆もやしが定番でした。

 

 凍み豆腐とは、高野豆腐のことで、一丁の豆腐をスライスして縄で編んで凍らせて干したものです。こちらのものより小さく、朝市などに行くと、吊るしたままで売られていました。

 豆もやしも、やはりこのあたりのものより豆の粒が大きく、茎も太くて長く、それが揃えて束になっていました。中華食材だとばかり思っていたもやしと、お出汁たっぷりで煮て食べることしか知らなかった高野豆腐の取り合わせはとても意外で、初めて食べた時は驚きました。

 

 今のようにビニールハウスの発達していなかった時代、真冬に新鮮な野菜が少なかったこの地方で、ビタミンCをたくさん含んでいて、しかも大豆タンパクも同時に摂ることができる豆もやしは、貴重な野菜だったに違いありません。

 寒い仙台で美味しく作れる凍み豆腐との、出会いもの、とでも言うべきでしょうか。味は地味ですが、栄養満点のかしこいお味噌汁だと思います。

 

 仙台のお雑煮にも凍み豆腐は入っています。

 とてもバランスの良いこのお雑煮は、意外と野菜の少ないお節料理の後にぴったりです。作るのに少々手間はかかりますが、身体にやさしい一品です。

 

 大根一本、人参一本、ゴボウ半分は、それぞれ千切り器を使って千切りにします。

 大きめのお鍋にお湯を沸かし、それらをサッと茹でます。(サッと、と言っても沸騰するまでに結構時間はかかります)熱いうちにザルに取って広げ、屋外に一晩出しておくと、たいてい大晦日の夜に作りますから、仙台では凍ります。それで野菜のアクが取れて甘味が加わります。東京でも、寒い時は半分くらい凍ることもあります。この凍らせた野菜を仙台では”おひき菜”と呼んでいます。

 

 出汁は昆布と、松島湾で獲れたハゼを素焼きにして干したものを使います。ハゼの干したものは東京では入りにくいので、今は九州の平戸で獲れた焼きアゴを使っています。5~6匹を昆布とともに一晩水に浸けておきます。

 

 翌朝、出汁を火にかけて、煮立つ直前に昆布とお魚を引き上げます。この中に一晩凍らせたおひき菜を入れ、その他にも白滝を5センチの長さに切ったものを一玉、戻した凍み豆腐の千切りを5~6枚、かまぼこの千切りを加えます。

 

 煮立ったら、塩、しょうゆ、酒で味付けして出来上がりです。

 お椀に焼いたお餅を入れ、たっぷりの野菜とお出汁をはり、セリをのせ、イクラをトッピングして完成です。

 

 あっさりとしたお出汁と野菜に、口の中ではじけるプチプチとしたイクラとの相性も抜群で、お節料理でお腹がかなり一杯になっていても、いくらでも食べられます。結婚以来、40年以上毎年欠かさず作り続けている我が家のお雑煮です。

 

 この凍み豆腐は、伊達正宗が仙台の岩出山という所に城をかまえた折、藩の飢饉に備えるため、また人々の栄養補給のために奨励して作られたのが始まりだそうです。

 

 うちでは欠かさず常備している高野豆腐ですが、美味しい食べ方には二通りあります。どちらも始めに水に浸けて柔らかく戻してから絞り、食べやすい大きさに切りますが、そのあと、ふわふわ、とろとろに食べたい時は、味を付けずに水から煮ます。つるんとして好きな柔らかさになったら味付けをします。

 

 逆に、しっかりした食感を味わいたい時は、先に味付けをしてから、戻して切った高野豆腐を入れます。すると、あまり柔らかくないため、煮崩れすることがありません。

 

 普段のお味噌汁にも、お豆腐の代わりに小さく切って入れることがよくありますが、その時はふわふわの食感にしています。

 こんな高野豆腐の食べ方があったなんて!と思っていただけたら嬉しいです。