アメリカの暮らしに憧れたこと
私が仙台に嫁いだばかりの頃、日本の古い文化や伝統よりも、アメリカの文化、食生活、明るい雰囲気に憧れていたのを思い出します。
アメリカのものはどれをとってもお洒落で、先端を行っているように思われ、とても羨ましかったのです。
東京での暮らしは、まさにそれに追い付こうとしているかのようでした。
当時青山に、日本で初めてフランスパンを焼くパン屋さんが出来、父は勤め帰りによく焼き立てのフランスパンを買ってきてくれました。
朝食はそのフランスパンとベーコンエッグ、ミルクをたっぷり入れたコーヒーが定番でしたし、夕食にはハンバーグやステーキがよく登場するという、かなり欧米風の食生活をおくっていました。
そんな頃仙台では、牛肉を食べるときは、一番長と呼ばれる繁華街までわざわざ買いに行かなくてはならず、東京都比べて遅れているように思えました。
主婦になった私は、早速家中のカーテンを白と紺のギンガムチェックに作り替え、あろうことか、年代物のテーブルや座卓をペンキで真っ白に塗ってしまいました。
少しでもまわりを明るい雰囲気にしたかったのです。
今思えば若気の至りで、恥ずかしくなってしまいますが、その当時流行っていたアメリカのホームドラマに出てくるような暮らしにすっかり影響を受け、生活環境を改善しなければ!とまじめに思っていました。
アメリカ製のオーブンレンジを買い、冷蔵庫も、まるで業務用のように大きなアメリカ製のものに買い替えました。大きなお鍋が丸ごと入って便利だったのですが、モーターの音がガーンとうるさく、すごいものでした。
今すすめられているエコ替えとはまったく逆ですね。
食生活も、パンやケーキを焼いたり、ローストビーフやステーキを作ったりと、アメリカのそれをまねた、精一杯背伸びをしたようなものを作っていました。
また何と言っても特別な思い入れがあったのはアップルパイでした。
学生時代の楽しかった思い出と一緒にずっと私の中にあり続け、まるで古い時代から新しい時代へのパスポートのような存在だったのです。
これもアメリカを代表するお菓子ですから、若い頃の私のアメリカかぶれぶりには、笑ってしまうほどです。
今、世界中が注目する日本の伝統的な食生活よりも、欧米風のほうがおしゃれで、先端を行っていると信じていたのですから。
外を向いていたあの頃は本当に若かったのだと思います。次第に日本の伝統食、考え方、暮らし方の素晴らしさを見直すようになり、今ではすっかり生活に取り入れ、楽しんでいます。私にとってあの時代があったからこそ、気付けたことがたくさんあったのだと思っています。
パンやアップルパイを焼きつつも、冬には火鉢を出して炭をおこし、主人と二人分のご飯を土鍋で炊いたりしています。